レオナルド・ダヴィンチは、絵画を「科学」として捉え、絵画の「3次元を2次元で表現する」という大命題を、「色彩表現」にって解決しようとしました。
1492年のレオナルドのノートに次のような記述があります。
【ダヴィンチNote1】
「世界の一望を描こうとする画家は、遠方への眺めの中で世界がますます青くなるということを考えてみるがよい。
5倍ほど遠く離れて描こうとするものを5倍ほど遠く青く描け」
このダヴィンチの理論は「空気遠近法」あるいは「色彩遠近法」と呼ばれています。
さて、問題です。休日にドライブして、雄大な山々が眼前に広がっています。
よく見ると、その夏の「山」も、一色ではなく、複雑な色彩をしています。次の山の中で
あなたから一番近くにある山は①②③のうち、どれでしょうか?
あなたから一番遠くにある山は①②③のうち、どれでしょうか?
Question1
①黄緑の山
②緑の山
③青い山
Answer1
最も近くにあるのは①黄緑の山
最も遠くにあるのは③青い山
これは「空が青い」のとまったく同じ理論です。
「遠くのものは青く見える」のです。
太陽の光は無色透明に見えていますが、実は「赤橙黄緑青紫」の色を等しく含んでいます。
均等に含んでいるからこそ、無色に見えています。
そして青と赤の色の違いは、光の「波長の長さ」です。
赤い光は波長は長く、大気中をスイスイと前進してきます。
青い光は波長が短く、大気中の塵などに衝突しながら、散り乱れます。その散り乱れた青い光が目の中に入って、青く見えているのです。
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整理しましょう。
線遠近法とは
「遠くの物は小さく、近くのものは大きく描く」。
色彩遠近法とは
「遠くのものほど青く見える」。
このように、移ろいゆく大気のようなものを、レオナルドは、科学として絵画に取り入れていきました。
常に、レオナルドの絵画は実験でした。完成作品が少なく、何を目的とした絵画なので、謎めいているのも、そのためでしょう。レオナルドにとって完成品よりも、そこに到るプロセスこそ重要だったのかもしれません。
次の絵は「受胎告知」の背景の部分です。印象派よりも400年前に、こんなことを考えているなんて、レオナルドの非凡ぶりと、ルネッサンスという時代の革命性に驚くばかりです。